Claude や ChatGPT にコピーを書かせても伝わらない 3 つの理由

Claude のチャット欄にプロダクトの説明を貼り付け、「これを LP のキャッチコピーに書き直して」とプロンプトを送る。30 秒後、それっぽい見出しが 5 つ並ぶ。

ただ、どれを使う気にもなれない。

「それっぽい」のは確かです。日本語として整い、構成も自然。でも、自分のプロダクトの “ここだけ” が、どこにも残っていない。これは 1 回のプロンプトの問題ではなく、AI を使ってコピーを書くという行為そのものに、構造的な限界が 3 つあります。

順に解いていきます。

理由 1:AI は「平均」しか返せない

LLM の出力は、学習データの確率分布から選ばれます。これは技術的な事実です。

何が起きるかというと、コピーを書かせると 学習データの中央値に近い表現 が出てきます。「業界最速」「効率化」「もう離れられない」── どれも、世の中の LP に大量に書かれている表現の平均値です。

平均値は、悪くはありません。ただ、悪くないだけです。

個人開発者にとって、コピーの仕事は「同じドメインで戦う他社と区別される」ことです。プロダクトに「ここだけ」がある以上、それを言語化しないと、検索やフィードからやってきた人の頭の中で他社と並んでしまう。「タスク管理 SaaS なら他にもあるな」で終わる。

AI が出す平均値の表現は、ちょうどその「他にもあるな」が刺さる位置にあります。学習データの中央値だから、競合の LP と並べたとき、ほぼ同じ顔をする。AI に書かせれば書かせるほど、あなたのプロダクトが「業界の中央値」に塗りつぶされていきます。

これは別記事 コピーライティングを学んでも売れない人の 3 つの誤解 で書いた「テクニックを覚えれば売れる」と同じ構造です ── 型は埋まっているのに、中身が抜けている。違うのは、AI のほうは作業時間が短い分、気づかないままパブリッシュされる確率が高いことです。

理由 2:AI は読み手の状況を想定できない

プロンプトに「ペルソナ:30 代エンジニア、年収 600 万、Mac 派、…」と書き込めば、AI はその設定に沿ったコピーを返します。一見、想定読者に向けて書いているように見える。

でも、現実の見込み客は その瞬間、特定の状況の中にいます

X のタイムラインから流れてきた人と、Google 検索の結果一覧を見ていた人と、誰かのブログから引用されて来た人。同じ「30 代エンジニア」でも、いま画面に何が映っていて、その前に何を読んだかで、刺さる一行は変わります。

朝の通勤電車で 3 秒だけ見た人、夜の自宅で比較表を 4 枚開いている人、SaaS の請求を見直している経理担当の隣で見ている人 ── どれも同じ「30 代エンジニア」のペルソナで括れますが、書くべきコピーはまったく違います。

AI が想定できるのは、プロンプトに書かれた抽象的な属性までです。プロダクトに来た瞬間にその人がいる「文脈」── 今日の気分、直前に読んだもの、競合と比較している最中なのか、まだ問題に気づいてもいないのか ── これは AI に渡せません。

これは AI の能力不足ではなく、そもそも書き手の側にしか見えていない情報だからです。プロダクトを運用していて、フィードバックを直接受け取り、流入経路を見ていて、サポートで「どこで詰まったか」を聞いているのは、作り手です。

理由 3:AI は事実の精度を担保しない

これがいちばん致命的です。

AI に「強めのコピーを 5 案」と頼むと、何が起きるか。「99% のユーザーが」「業界最速」「導入企業 1,000 社突破」のような数字や比較が、根拠なく混じります。

LLM は、強い表現の学習サンプルを真似します。「99%」も「最速」も、学習データの中の他の LP から借りてきた表現です。あなたのプロダクトの実数値ではありません。

これをそのままパブリッシュしたら、何が起きるか。

  • 競合との比較が事実と違っていた → 訴訟リスク
  • 「99% のユーザーが」と書いたが実際は調べていない → 景品表示法上の問題
  • 「最速」と書いたが厳密に測ったわけではない → クレーム

法的リスクの前に、信頼が一発で消えます。個人開発者は信頼で売る世界です。誇張を見抜かれた瞬間、その読み手はもう戻ってきません。

そして AI に「数字を発明しないで」と注意しても、別の場所で同じことをやります。これは LLM の確率的な出力の性質で、プロンプトで完全に防げない領域です。

つまり、AI に書かせたコピーは、人間がもう一度全数チェックしないと出せません。チェックする側に「これは事実か」を判断できる目がなければ、誇張がそのまま世に出る。AI に書かせる時間より、検証する時間のほうが長くなることも珍しくありません。

では AI は使えないのか

ここで誤解しないでほしいのは、AI が使えない、という話ではないことです。

AI は HOW(書く実作業)を高速化する強力な道具です。表現のバリエーション出し、構成の組み替え、長文の要約、敬体と常体の変換 ── これらは AI で 10 倍速くなります。

ただし、AI が高速化できるのは WHY を持っている人 の HOW だけです。

「誰に、何を、なぜ今、どう伝えたいか」が書き手の側にあって、それを プロンプトに凝縮できる人 が AI を使うと、出力は途端に “自分のプロダクトの声” を持ち始めます。

逆に、WHY を持たないままプロンプトを投げると、AI は学習データの平均値を返します。理由 1 で書いた通りです。

つまり:

  • WHY を持っている人 × AI → 速くて、自分の声で書ける
  • WHY を持たない人 × AI → 速くて、平均値で書ける

「AI が普及した時代だからこそ、コピーを学ぶ意味が薄れる」── これは逆です。AI が普及した時代だからこそ、WHY を持っている人と持っていない人の差が、これまで以上に出力に表れる。AI は倍率を上げる装置で、ゼロに何を掛けてもゼロ、です。

まとめ:AI 時代こそ、WHY を入れる

Claude や ChatGPT を使い始めた個人開発者が、最初にやるべきは プロンプトのテクニックを覚えること でも、より高性能なモデルを試すこと でもありません。

「自分のプロダクトの WHY を、自分の言葉で言語化できるか」── ここに戻ることです。

WHY が言葉になっていれば、AI は強力な相棒になります。3 行のプロンプトでも、いい出力が返ってきます。

WHY が抜けたままだと、どのモデルを使っても、どんなプロンプトを書いても、出てくるのは業界の中央値です。これは LLM の性能の問題ではなく、構造です。

姉妹記事として、コピーを学ぶ側で起きるつまずきを扱った コピーライティングを学んでも売れない人の 3 つの誤解、プロダクトを作る側で起きるつまずきを扱った 「プロダクトは語る」と思っていた個人開発者が陥る 3 つの誤算、フリーミアムで価格と無料の境界につまずく 「無料で十分」と消えていくユーザーをめぐる、3 つの誤算 があります。本記事「使う側」と合わせて読むと、WHY が 4 軸で立体的に見えます。


WHY を順に腑に落とし、そのあと AI を相棒にして HOW を回す ── このつなぎ目までを 1 冊にまとめたのが、下記の本です。LP・短文・メールの戦場別の書き方と、Claude を実際に使ったプロンプト連鎖の実演を含めて統合しています。

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