「ニーズがなかった」は、たいてい早すぎる結論

公開して、数週間が過ぎた。アクセス解析を開く回数が、だんだん減っていく。登録の数字は、ほとんど動かない。ある日、結論を出します ──「これは、ニーズがなかったんだ」。そして、次のアイデアに移る。

個人開発のサイクルは、しばしばこの形で終わります。そして「ニーズがなかった」という結論は、いちばん受け入れやすい。自分の努力不足でも、コードの欠陥でもなく、「そもそも市場がなかった」のだから、誰のせいでもない。きれいに諦められます。

けれど、その結論はたいてい、早すぎます。

「反応がない」という事実には、原因が何通りもあります。「需要がなかった」は、そのうちのひとつにすぎません。やっかいなのは、ダッシュボードの上では ──「登録ゼロ」という数字の上では ── どの原因も、まったく同じ顔をしていることです。だから区別がつかないまま、いちばん諦めやすい原因に手が伸びる。

この記事では、「ニーズがなかった」と判断する前に切り分けたい、3 つの取り違えを順に見ていきます。

取り違え 1:「見られていない」を「要らない」と読む

登録がゼロなのは、需要がないからではなく、そもそも十分な人数の目に触れていないから ── 個人開発の初期は、まずこれを疑います。

X で何回か告知した。Product Hunt に出した。それは大切な一歩ですが、「対象になる読者に、十分な数だけ届いた」とは、まだ言えない量です。需要の有無は、想定読者にある程度の規模で届いて、初めて検証できます。それ以前の「反応ゼロ」は、需要についてのデータではなく、単に露出が足りていないというデータです。

ここを取り違えると、本当はまだ誰の目にも触れていないプロダクトを、「誰にも求められなかったプロダクト」として葬ってしまいます。

取り違え 2:「登録されない」を「要らない」と読む

人は来た。けれど登録しない。ここで「来たのに、要らないと判断された」と読むのは、まだ早いのです。

来た人の多くは、あなたのプロダクトが何なのか、自分にとって何をしてくれるのかを、理解しないまま去っています。要否を判断して断ったのではなく、判断する手前で離脱している。最初の数行で価値が翻訳されていないと、人はそもそも「要る/要らない」を考えるところまで進みません。

これは需要の問題ではなく、伝達の問題です。そして個人開発者にとって、いちばん見えにくい原因でもあります。自分の頭の中ではプロダクトの価値が完璧に意味を持っているので、初対面の人の画面で何が起きているのかが、どうしても見えない。なぜ作った本人ほどそこを書けないのか、という構造は、別記事個人開発者のサービスが「素通り」される、たったひとつの構造的な理由で掘っています。

取り違え 3:「今は要らない」を「ずっと要らない」と読む

知り合いに見せたら、「いいね。でも、今は使わないかな」と言われた。このひと言を、「不要」の箱に入れてしまう。

けれど「今は要らない」は、「その人が、今、その状況にいない」というだけのことです。同じ人が 3 ヶ月後には要るかもしれない。別のセグメントの人なら、今すぐ要るかもしれない。需要は「ある/ない」の 2 値ではなく、「誰の、どのタイミングの」需要か、で決まります。

届け先とタイミングを 1 通りしか試していないなら、それは「ニーズがない」ではなく、「この届け先には、今は刺さらなかった」というだけ。まだ、ほとんど試していないのです。

本当の壁:需要の不在は、いちばん最後にしか分からない

3 つの取り違えに共通するのは、「反応のなさ」を、いちばん手前で「需要の不在」に変換してしまうことです。

本当に需要がない、ということは、もちろんあります。でもそれは、十分な露出を確保し、最初の数行で価値を翻訳し、複数の届け先を試した ── そのあとにしか分からない結論です。多くの撤退判断は、この順番が逆になっています。確かめていない順路を飛ばして、いきなり最後の結論に着地している。

そして 3 つのうち、自分でいちばん潰しにくいのが、取り違え 2 ── 伝達の問題です。露出は増やせます。届け先は変えられます。けれど「自分のプロダクトの価値が、初対面の人に翻訳できているか」は、作った本人にはほとんど見えません。自分の頭の中では完璧に意味が通っているからこそ、どこが通じていないのかが分からない。

「ニーズがなかった」と結論する前に、ひとつだけ確かめてほしいことがあります。

そのプロダクトの価値は、初対面の人に、最初の数行で伝わる言葉になっていたか。

ここに自信を持って「はい」と言えないのなら、あなたはまだ、需要の有無を確かめていません。確かめたのは、「いまの伝え方では刺さらなかった」ということだけです。

まとめ:撤退の前に、伝達を一度だけ疑う

諦めるな、という話ではありません。撤退は、正しい判断であることも多い。限られた時間を次のアイデアへ回すのは、個人開発では当然の戦略です。

ただ、その判断をくだす前に ──「反応のなさ」を「需要の不在」と読み替える前に ── 伝達の問題を、一度だけ、本気で疑う価値があります。最初の数行を相手の言葉で書き直しただけで、数字が動きだすプロダクトは、確実にあるからです。それは「ニーズがなかった」のではなく、「ニーズに、まだ言葉が追いついていなかった」のです。

公開すれば伝わる、いいものなら自然に広まる ── という、もう一段手前の幻想は、別記事「プロダクトは語る」と思っていた個人開発者が陥る 3 つの誤算に。コピーを学ぶ側で同じ WHY につまずく構造は、コピーライティングを学んでも売れない人の 3 つの誤解にまとめています。


「最初の数行で価値を翻訳する」を、なぜ・どう、まで一冊につなげたのが下記の本です。個人開発者・インディー Web 作者・動画作者に向けて、ランディングページ・短い文章・メールの戦場別に、AI を相棒にした書き方の実演まで含めて書いています。

#コピーライティング#個人開発#プロダクト